副業で特に気をつけたいのは、本業と競合する仕事を避ける「競業避止」と、本業で知った情報を外に出さない「秘密保持」の2つです。副業が認められている会社でも、この2つは守らなければならない決まりとして残ります。どこからが問題になりうるのか、判断の目安を整理します。
競業避止とはどういう義務か
競業避止義務とは、会社と競合する事業を行わない、あるいは競合する会社で働かないという義務のことです。在職中は、雇用契約や就業規則を根拠に、多くの会社で求められています。
この義務の目的は、会社の利益を守ることにあります。従業員が競合先で働けば、会社が持つ顧客やノウハウが流出するおそれがあるため、会社として制限したい事情があります。
競業にあたるかどうかは、事業の内容、顧客の重なり、得られる情報の性質などから総合的に判断されます。同じ業界であっても、市場や顧客がまったく違えば、競業にならない場合もあります。逆に、業種は違っても、実質的に同じ顧客を奪うなら、競業とみなされることがあります。
副業先から「本業の会社のやり方を教えてほしい」と頼まれることもあります。善意の協力のつもりでも、会社の内部情報を伝える行為にあたる可能性があります。報酬の有無にかかわらず、断るのが原則です。
競業にあたりやすいケース
典型的なのは、同業他社と雇用契約や業務委託契約を結んで働く場合です。報酬を受け取る立場であれば、会社の競合先に力を貸していることになります。
また、本業と同じ種類の商品やサービスを、自分で個人として販売する場合も、問題になりやすいと言えます。本業の取引先や見込み客に、個人として営業をかけるのは、特に避けるべき行為です。
本業で担当している顧客を、副業にそのまま引き込むような動きは、競業だけでなく、秘密保持の面でも問題になります。顧客リストは会社の財産であり、持ち出して使うことは認められていません。判断に迷ったら、始める前に会社へ確認してください。
グレーに感じる場合の判断のコツは、会社の経営者の立場に立って考えることです。「自社の従業員がこの副業をしていたら、不快に感じるか、実害が出るか」を想像すると、問題の有無が見えやすくなります。
競業にならないと考えられるケース
本業と業種が異なり、顧客も重ならない副業は、一般に競業にあたりません。たとえば、会計事務所の会社員が休日に農産物を販売するようなケースです。
趣味や特技を活かした、ささやかな活動も、会社の事業と関係が薄いなら、問題になりにくい傾向があります。ただし、規模が大きくなれば、評価が変わる可能性はあります。
注意したいのは、同じ業界の知識を使う副業です。経験を活かせる点は強みですが、会社の事業と近い場合は、判断が難しくなります。あらかじめ会社の担当者に相談し、問題がないと確認をとっておけば、安心して進められます。
秘密保持の違反が問題になると、懲戒処分だけでなく、損害賠償を求められる場合もあります。故意でなくても、不注意による漏えいで責任を問われることがあるため、日ごろの扱いには慎重さが求められます。
秘密保持の対象になる情報
秘密保持の対象は、会社が秘密として管理している情報です。顧客の個人情報、取引条件、未発表の商品や価格、社内の資料、技術上のノウハウなどが含まれます。
会社が正式に公開した情報や、誰でも知ることができる情報は、秘密には当たりません。ただ、公開情報と秘密情報の境目は、明確とは限らないため、判断に迷う場合は避けるのが無難です。
また、情報を直接使わなくても、本業で得た知識を副業に活かす場面があります。一般的なスキルや経験として身につけたものは、使っても構わないと考えられています。他方、特定の顧客に関する情報や、社内だけの資料に基づく知識は、使えないと考えてください。
副業の成果物を公開する際も注意が必要です。たとえば、本業の経験をもとに記事を書くときは、具体的な会社名や顧客名、数字を出さないようにします。一般論として書き直すだけで、リスクは大きく減ります。
日々の副業で気をつける行動
秘密保持を守るための行動として、次のような習慣が有効です。
- 会社のパソコンやメールアドレスを、副業に使わない
- 本業の資料やデータを、自宅や副業の環境に持ち出さない
- 副業の依頼主や仲間に、会社の内部事情を話さない
- SNSで、会社名や勤務先が分かるような投稿をしない
どれも基本的な行動ですが、無意識にやってしまうことがあります。たとえば、副業のメールを会社のパソコンで確認する、雑談の中で担当している案件の話をするといった場面です。
副業の仲間や取引先から、本業の話を尋ねられる場面もあるでしょう。その場合は、答えられない旨を丁寧に伝えて構いません。断ることで、信頼を損なう心配はありません。
誓約書にサインを求められたときは、内容をよく読み、疑問があれば確認してからにしてください。その場で署名を迫られても、持ち帰って検討したい旨を伝えて構いません。署名した書類の控えは、手元に保管しておきます。
退職後の義務についても知っておく
競業避止や秘密保持の義務は、退職後に続く場合があります。退職時に誓約書を交わしたり、就業規則に退職後の定めがあったりするためです。
退職後の競業制限は、期間や地域、内容が合理的な範囲に限られます。過度に広い制限は、無効と判断されることもあります。とはいえ、どこまで有効かは個別の事情で変わるため、簡単には判断できません。
副業から独立を考えている人は、退職前に、自分が交わした書類や規則を確認しておいてください。判断に不安があれば、弁護士や労働相談の窓口に相談する方法があります。
なお、副業を認める会社が増えた背景には、従業員が社外で得た経験を本業に活かせるという期待もあります。ルールを守って副業を続けることは、会社にとっても利益になりうる行動です。ルールの範囲を理解したうえで、堂々と取り組める副業を選んでください。
迷う案件に出会ったときは、依頼を受ける前に、案件の内容を紙に書き出して眺めてみてください。依頼主は誰か、何を作るのか、どの顧客に届くのかを整理するだけで、競業の疑いがあるかどうかが、かなり明確になります。
次にやること
自分の副業が、本業と競合しないか、秘密情報を使っていないかを、3つの質問で点検してください。「本業と同じ顧客を相手にしていないか」「本業の資料や知識を直接使っていないか」「会社の名前を出していないか」です。
どれか一つでも当てはまる、あるいは自信がない場合は、始める前に会社へ確認します。判断に迷ったまま進めるより、早く確認して、安心して取り組める形に整えるほうが、長い目で見て得策です。




